母の死

人が人を理解することなど不可能です。たとえ、自分の子であっても。

私の母は今年に亡くなりました。
母は認知症がひどかった。度々注意しても、反発ばかりで殆ど意味がなかった。
叱るのではなく、「やさしく笑いながら、こうしようね」ともっていくほかなかった。
頭とか理屈は、ほとんど役に立たないと知った。
強靭な愛でもってしか勝てない、通じ合えないと。
自分のことなど捨ててかからないと相手には通じない。全てにおいてそうなんです。
「相手を理解することができる」ということは、とんでもない錯覚で、傲慢でしかない。
頭は本当に役に立たないんです。ろくなことしか考えない。

母に昔の童謡の歌を聞かせると、楽しく歌いだすんです。殆ど忘れているのに。
童謡のCDを購入して、枕もとで一緒に歌うようにしていました。
亡くなる少し前は、歌を聞かせると、唇がかすかに動いていました。確かに歌っているんです。声は出ませんが。
歌が好きなんです。目が開かず、声も出ないが、耳は聞こえるのです。顔は動かなくても喜んでいるのです。

母が亡くなった直後にも、私が「どんぐりころころ」と歌って聞かせました。
口も目も顔も全く動きませんでしたが、それでも、母が今歌っているなと感じました。